HOME平成25年（2013）6月1日、第64回日本東洋医学会学術総会（於鹿児島）にて発表
『霊枢骨度篇尺度攷』について（ポスター版）
竹内鍼灸院 竹内 尚
【緒言】
研医会図書館所蔵の抄本『霊枢骨度篇尺度攷』は、江戸後期の考證医家・森立之（1807～1885）の述、その子・約之（1835～1871）の校になる、『霊枢』骨度第十四についての研究書である。考證医家の著作研究の一環として、この度調査を行った。
【書誌について】
不分巻一冊、全六葉。毎半葉十三行、行二十五字の朱格の升目用箋に、約之の筆にて記される。表紙題簽に「霊枢骨度篇尺度考」、巻首に「霊枢骨度篇尺度攷」と題す。内題に続いて「元治甲子（1864）十一月直衛写、同夏月養民誠助写／元治元年甲子仲夏望森立之養竹述、男森約之養真校」と記し、以下本文。行頭より『霊枢』経文を記し、低一格にて案語を記す構成を採り、全編に渉って、朱で句点を付す。
【内容について】
本書は、骨度篇の骨度に関する38経文について考證したものである。まず冒頭にて「案同身寸、以両乳間為律、…、両乳間有二説」として、九寸五分と八寸の二説を挙げるが、本書では骨度篇に従って九寸五分を取り、近人鍼灸にて用いられる八寸は取らないとする。続いて、『霊枢』の「人長七尺五寸」について、「是漢時文、故用漢尺（一尺は約23㎝）」と述べ、「皇国今曲尺（一尺は約30.3㎝）五尺七寸、而在周尺（一尺は約18.4㎝）為九尺三寸七分五厘」であるという。そして、身の丈「漢尺七尺三寸（約168.1㎝）」の門人・須田忠邦（字は誠輔、号は友枝、豊前小倉の人）を、「今以此身為律」とし、その両乳間を九寸五分と為して基準とし、それを身体諸処に転用して、骨度篇を読むという。以下、「頭之大骨囲二尺六寸」「胸囲四尺五寸」「腰囲四尺二寸」などについて、忠邦の丈尺と較べ、その結果を、「今験同」や「今験四尺三寸」などと記している。概ね骨度篇の記載と忠邦の実測は合致しているが、4箇所の相違があり、その理由として、「忠邦少肉故也」や「字之訛也」などと述べている。また案語を付し、身体部位について解説し定義付けている。
【結語】
本書は、骨度篇の経文を門人の丈尺に基づき検証するという、一風変わった書である。その案語も、身体部位の簡潔な解説に止まり、多くの文献を援引する考證医家の医経研究書とは、大いに趣を異にする。僅か六葉の小品であるが、森父子の研究態度の一端を伺い得る好資料であるといえよう。