『病名纂』について(抄録版)第114回日本医史学会総会2013 of 横浜市中区小港町の竹内鍼灸院(鍼灸・訪問マッサージ・リハビリ)


 はり・きゅう・マッサージ
竹内鍼灸院   ご予約・お問い合わせ:free2.gif0120-66-4189
横浜市・本牧の竹内鍼灸院では、痛くなく熱くない日本の伝統的な鍼灸治療と、健康保険を利用した、ソフトな指圧と無理のない機能訓練の、在宅リハビリマッサージを行っています。

『病名纂』について(抄録訂正版)
竹内 尚(日本鍼灸研究会)

【緒言】
『病名纂』は、江戸後期の考證医家・多紀元簡(1755~1810)が、いろは別に病證名をまとめた、病證名事典というべき一書である。目録によれば、本書は、九州大学附属図書館医学図書館(三巻三冊)、京都大学附属図書館富士川文庫(三巻二冊)、東北大学附属図書館狩野文庫(三巻二冊と不分巻一冊の二本)、武田科学振興財団杏雨書屋(普救堂叢書所収の二巻一冊と不分巻一冊の二本)、千葉大学附属図書館亥鼻分館(三巻三冊)、刈谷市中央図書館村上文庫(不分巻一冊)、研医会図書館(二巻一冊)などに所蔵されている。伝本は全て写本で、三巻本、二巻本、不分巻の三種がある。本発表では、村上文庫所蔵本(登録番号3545)を調査し、江戸後期の考證医家研究の一助とする。

【書誌について】
不分巻、一冊。全八十六葉。外題は貼題簽に「病名纂 完」と墨書される。四周単辺有界、毎半葉十二行、版心上下黒口、上下外向の山形魚尾の用箋を使用している。冒頭に「病名纂」と題し、次行に「東都医官 丹波元簡廉夫輯」と記し、以下本文。概ね一行を二段に分け、病證名を列挙記載する。病證名の後に双行で文献名を挙げ、まま考證を記す。巻末に、「弘化乙巳(1845)陽月令人写成」の識語がある。

【内容について】
本書は、いろは44部に、以部98、呂部42、波部176、仁部64、保部68、辺部42、登部92、知部125、利部46、奴部1、留部6、遠部17、和部28、加部208、与部16、太部168、礼部44、曽部89、津部13、禰部31、奈部37、良部45、無部9、宇部23、乃部33、久部112、也部32、末部16、計部183、不部100、古部166、天部104、阿部45、左部90、幾部251、由部22、女部25、美部1159、之部571523、恵部51、比部120、毛部31、世部123、寸部58の、都合3632の病證名を収録している。病證名の典拠には、『素問』『霊枢』(篇名にて記す)のほか、『金匱』『難経』『千金方』『病源』『肘後方』『傷寒論』『脈経』『医説』『続医説』『外科正宗』『医学綱目』『医学入門』『三因方』『鍼灸大全』『甲乙経』『明堂灸経』『聖済総録』『本草綱目』『銀海精微』『史記』『説文』『山海経』など、数多くの文献が挙げられている。これらのうち、突出して多いのが『素問』『霊枢』であり、『病源』『肘後方』『医学入門』などがそれに次ぐ。

【考察および結語】
本書には、数多くの病證が、様々な文献から幅広く抽出されている。しかし、概ね病證名と出典の列挙に止まり、病證についての考證は僅かである。従って本書は、本格的な病證研究書とは言い難い。しかしながら、多くの病證名が典拠とともに簡単に検索できる形態で抽出してあることは、後学に裨益するところが大きかったと想像される。また写本が少なからず作られていることからも、後の病證研究に少なからず影響を与えたものと思われる。本書の成書年は詳らかでないが、考證医家の病證研究の嚆矢をなすものの一つであるとともに、後の病證研究の礎となった一書といえよう。今後は、他伝本との比較、特に三巻本との比較を行いたいと考えている。

※本稿を訂補した、スライド版がありますので、参照にされる方は、そちらをご利用下さい。